人生の終盤が退屈なんて嫌だ

 パンクな題をつけてしまった。

 この前、施設に行ったら利用者さんたちが数独を解いていた。

 普通の数独の本だと文字が小さすぎるので、エツ子さんの娘さんが拡大コピーしたお手製の問題だった。楽譜や学校で配られるようなプリントの裏に、大きな枠が印刷されていて、赤いマジックで何個か数字が埋めてある。何だか家の様子やご家族との会話まで感じられてほっこりした気分になった。

 難易度も初級と中級があって、エツ子さん、ターさん、ミーさんがそれぞれの難易度に合わせて問題を解いていた。

 てっきりそういったパズルが好きなのかと思い、「お得意なんですかー?」とエツ子聞いたところ、

 「暇つぶしよ!」

 という答え。

 衝撃を受ける。

 好きではないんか???

 「こういうところにいるとすることがほとんどないでしょ~。そりゃ色々な催しもしていただきますけど、やっぱりこういう風に暇な時間ができるの。じーっと座っているだけだと時間がなかなか過ぎなくて。退屈。」

 「でも、こういう風にパズルを解いていると、あっという間に1時間とか過ぎてるの。頭は疲れるけどね。」

 こういってケラケラ笑いながら、ターさん、ミーさんと言って笑いあった。

 

 私は平日仕事があり、終わったら数時間の自由時間を愛おしく思い、好きな料理をしたり、友達とラインをしたりしている。休日も連休もあっという間で、もっと欲しいと常に思っている。

 しかし利用者さんたちは逆に時間を持て余している。 

 退屈を紛らわすためにマスに1から9までの数字を埋めていく。

 その気持ちを想像すると物悲しい気持ちになった。

 人生の終盤が退屈なんて嫌だ。

 

 私が施設に通う理由は色々あるが、利用者さんたちに楽しい!と思ってもらえる時間を増やすのは大きな目的の一つだ。

 

 高齢者介護に関して言えば、この10年で制度は各段に良くなった。胃瘻が減ったし、自宅で伴侶が身を粉にして介護をしなくて済むように、色々な施設が整備された。つまり、身体的な介護制度が充実した。

 

 しかし、精神的な介護は別だ。人生の残り10年~20年が退屈になってしまう、という問題は残っている。実は寂しい、家族に気を遣わせたくない、つまらない、といったネガティブな言葉は利用者さんたちからよく聞かれる。

 今通っている施設は、私から見て雰囲気もサービスも非常に素晴らしい。しかしこの施設ですらそういった発言が聞かれるのだから、全国で見たら何万という人たちが同じ思いを抱えているのではないか。

 これらを少しでも解消するために、微力ながら活動していきたい。

 

※個人名はいずれも仮称です。